新綱島検車区業務日誌

主に模型いじりの記録を、備忘録として。

【机上研究】快速「海峡」の編成について(その1)

今日は趣向を変えて、机上研究でも。

 

国鉄民営化からちょうど1年が経った1988年3月、青函トンネルの開通と津軽海峡線の開業に伴い、沿線のローカル輸送と青函間の都市間輸送を兼ねた列車として、快速「海峡」が運転を開始しました。この「海峡」は、この時代の新設列車でありながら、時代に逆行して機関車牽引の客車列車であったことが知られています。

これには、「準備期が国鉄末期ということで極力費用を抑える必要があったこと」「電車化・気動車化や貨物列車の減少により全国的に機関車・客車が余剰になりつつあったこと」「時季ごとの旅客変動に対応して編成両数の増減を容易にする必要があったこと」「当該区間にはATC等の専用装備が必要であり、その準備数は極力少なくする必要があったこと」などの事情が複雑に絡んだ結果であろうと思います。そのためこの区間では、貨物列車としては専用形式として電気機関車ED79形が改造によって用意され、特急列車では青森運転所の485系のうち必要最低限の編成にのみATC等を搭載されました。そして普通列車には、牽引機を貨物と共用のED79形を用い、客車は全国から余剰の50系を集めてアコモ改良を施した車両が用意されることになりました。これが快速「海峡」用の50系5000番代と呼ばれるものです。

この快速「海峡」は、客車列車であることを存分に生かし、最短3両から最長12両までを自在に編成し、あるいは50系に限らず12系・14系等他形式を用いるなど非常に変化に富んだ列車でありましたが、一方でネット上ではこれらを体系的にまとめた資料に乏しく、「海峡の編成はよくわからない」などの呟きも散見されます。

このところ、「海峡」に見立てた鉄道模型を数点購入しましたが、それを整備するにあたって「海峡」の編成に関する疑問が生じ、調べるうちにある程度の情報が集まってきましたので、一旦それを整理するためにここで記事にしてみようかと思います。

ここでは、50系を初め12系・14系等の他形式や、急行「はまなす」等の関連列車を含めて、調べた限りの情報をここにまとめます。なにぶん現役時代を知らない若造が付け焼き刃の知識で書くもので「何を今更」という点も多々あるかと存じますが、何卒ご笑覧いただきつつ、もし何かご存知のものがあれば情報提供をいただけますと幸いに存じます。なお情報元にはネット上の個人サイト・ブログ等も多く含みます。個人的に信用に値すると判断したものを載せますが、正確性の保証はできない点をご理解ください。

 

(後日記)記事の一覧はこちら。編成考察は「その3」からです。

【机上研究】快速「海峡」の編成について(その1) - 新綱島検車区業務日誌
 その1は実車研究。牽引機であるED79形について。

【机上研究】快速「海峡」の編成について(その2) - 新綱島検車区業務日誌
 その2は使用客車である50系について。

【机上研究】快速「海峡」の編成について(その3) - 新綱島検車区業務日誌
 その3は50系の編成パターンの考察(1988年~1994年改正)です。

【机上研究】快速「海峡」の編成について(その4) - 新綱島検車区業務日誌
 その4は50系の編成パターンの考察(1997年~2002年改正)です。

【机上研究】快速「海峡」の編成について(その5) - 新綱島検車区業務日誌
 その5は『JR気動車客車編成表』に基づく補遺・俯瞰的な記事です。

「海峡」の牽引機ED79

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青森行き急行「はまなす」を牽引するED79形9号機(2014年3月撮影)

ED79形のスペック

使用する形式、特に編成形態が豊富で全容の知れない「海峡」ですが、「青森〜函館間を結んだこと」「ED79形(及びED76-551)が牽引したこと」の2点だけは、運転開始から廃止になるまで全く変わることがありませんでした。というわけで、本題に入る前にさらっとED79形についておさらいしておきます。

このED79形には、ED75形700番代からの改造でJR北海道に在籍した0番代と100番代のほか、JR化後にJR貨物が新製した50番代が存在します。

単機で運用可能な0番代は、早い車両でトップナンバーが国鉄時代の1986年9月に落成し、遅いものでも開業3ヶ月前の1987年12月までに全車が出揃っています*1。1987年9月には実際にED79形を用いた入線試験列車が走行し、また10月からは習熟運転が開始されています*2ので、早めに揃えておく必要があったものと思います。

一方、必ず0番代を相棒とした重連を組む必要のある100番代は、トップナンバーの101号機こそ0番代1号機と同じ1986年9月に落成していますが、全車が出揃うのは開業ギリギリの1988年3月でした。0番代だけでも重連が組めるので、制約のある100番代が後になるのは当然のことと言えるでしょう。

0番代は700番代後期車から改造され、車番は見たところ改造区所別に原番号順の連番を付番しているようですが、日立製作所施工の12,13号機は苗穂工場担当のものに割り込む形になっており、また20,21号機は番号が飛んでいるので、推測ですがもしかすると中途で計画が変更になったものかもしれません。一方100番代は前期車ベースの改造で、付番方法も原番号、施工区所、出場順とも特に関連が見られませんでした。改造内容が比較的簡素であること、それによって運用に制限がある(単機運用できない)ことと種車が前期車であることから、その後余剰が出た際に100番代から淘汰されることは予測のうちであったように見受けられます。

なおJR貨物による新製車である50番代は、全車が1989年に東芝府中工場で製造され、番号順に落成しているようです。

0・100番代と50番代の差異についてはWikipediaに比較表がありますのでそちらをご参照いただくのが手っ取り早いですが、運用上の大きな相違点は最高速度差(0・100番代が110km/hに対し50番代は100km/h)、方向転換の可否(0・100番代は方転不可)であることかと思います。その制約の範囲内であれば混結運用が可能でありました。特に、50番代は貨物用でありながら電気暖房用の電源供給機能が搭載されていたので、旅客列車を50番代が牽引する事例もあったようです。

また、比較表で気になったのは主電動機形式で、改造車である0・100番代がMT52Cであるのに対して新製車の50番代がMT52を使用しており、この表記が正しいのであれば新製と言いつつ廃車になったED75形0番代前期車などの発生品を使用していた可能性もありそうです。(主目的である編成に関係ない部分であるので特に調べてはいません)

ED79形の運用

これらED79形は、貨物列車では主に重連で、旅客列車では単機で運用にあたっていたとされますが、実際には旅客列車であっても運用上の都合で重連牽引になる例*3があったほか、貨物列車であっても臨時列車などで編成が短い場合に単機で牽引する*4こともありました。

運用範囲は、北海道側の終点は函館駅ですが、本州側は旅客列車が青森駅発着であるのに対し貨物列車は青森信号場側へ出入りします。奥羽本線との継走列車はさらに上り方にある東青森駅で機関車交換を行っていましたので、東青森〜五稜郭間が貨物運用の、青森〜函館間が旅客運用の運用範囲といえるでしょう。ただし、50番代は一時期仙台地区の長町駅までロングラン運用されていた時期があったようです。

貨物列車を牽引して青森信号場や東青森駅まで来た機関車が、直接青森駅に入って旅客列車を牽引しようとすると機関車の方向が変わってしまいます。50番代は方転が可能でしたが0番代はそれが不可能であること、また50番代であっても実際に車両の向きが変わっている写真を見たことがないことから、これらの駅間で回送する場合は必ず青森運転所へ一旦引き込んだものと推測します(この点については今後も調査を続けて行くつもりです)。要は、常に向きが一定であったということです。

そして、パンタグラフも必ず同じ側のものを使用していました。通常、交流機関車においては運転方向を基準に後ろ側、客車や貨車が連結されている側のパンタグラフを上げるものですが、ED79形は函館方(2エンド側)を常に上げ、青森方(1エンド側)は予備という位置付けでした。そのため駅間で撮影された写真であっても、遠目からでも上り下りの推測ができます。

2000年にJR貨物の後継形式であるEH500形量産車が登場すると徐々に置き換えが進み、JR北海道所有の0・100番代牽引による貨物列車牽引は2006年改正で消滅。また2002年に快速「海峡」が廃止になったこともあり、2009年までに100番代の全車と0番代の約半数である11両が廃車になっています。EH500形投入後も50番代は運用を継続し、事故廃車1両(56号機)を除いた9両が2015年まで運用されましたが、北海道新幹線開通に伴って架線電圧が上がることから、対応形式であるEH800形に置き換えられ2015年3月改正で運用が消滅しています。0番代についても、最後まで残ったカシオペアはまなすが2016年改正で廃止され、これを以ってED79形の運用が完全消滅となりました。

「海峡」の廃止後は貨物列車と夜行列車の牽引のみであったため、特に0番代は暗い時間にしか運用されず撮影者泣かせだったのではないかと思います。冒頭に掲載した写真は、私がED79形で唯一撮影することができた走行写真です。だいぶ補正をかけて明るくしていますので見苦しいですが、私にとって大切な一コマになりました。

さらっと書くだけのつもりが意外と長くなってしまいましたが、「海峡」を知る上で必要なED79形の基礎知識をまとめてみました。

キリがよいので、続きは次回に。